探しはじめた、と書きましたが、実は私の中でもうすでに答えは出ていました。バニラアブソリュートの香りです。”バニラ”と書くと、多くの方はアイスクリームのバニラを思い浮かべるかと思います。一般的にスイーツに使われる”バニラエッセンス”の香りは、バニリンという香気成分が特徴となっています。私たちが使用したバニラアブソリュートにもバニリンは含まれているのですが、スイーツのような甘さだけの香りとは一線を画す香りです。
◆バニラアブソリュート:
バニラの鞘の部分から溶剤抽出法によって香気成分を抽出します。豊潤なバニリンの甘さの奥に、スパイスのようなドライな香りやリキュールのようなほろ苦さを感じさせます。バニラは広く親しまれている香料ですが、実は貴重な香料で、ハイクラスなものは1kgあたり300万円ほどで取引されています。
28本目の試作(SS-28)にバニラアブソリュートを入れたところ、期待した以上の素晴らしいアコードが完成しました。トップノートから香り全体を丸く包み込むような柔らかさが生まれ、香料同士の尖りがとても穏やかになりました。私がなぜバニラアブソリュートを使うことに思い至ったかというと、ゲランのルールドニュイという香りからヒントを得たからでした。Libertaのアートディレクションを担当している、Shota Yabeが購入したルールドゥニュイを嗅ぎ、見事なまでのバニラの香りたちに感銘を受けていたのです。その記憶を頼りにバニラアブソリュートをうまく調合していくことで、香り全体の調和を取っていったのでした。ありがとう、ティエリー・ワッサー氏。
次回、サクラジャーナル #07「香りが完成」は、2021年2月13日公開です。
プロフィール:
山根大輝@NY406
Founder&CEO。大学卒業後、コンサルティングファームで働きながらパルファンサトリで調香を学ぶ。好きな香料はプチグレン、ネロリ、ガルバナム。LIBERTAはグリーンタイプを愛用。