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2021.02.05

【桜の香水ができるまで】#03「香りのきっかけ」

今までになかった”さくら”の香りを再定義しようと出発したクリエーションでしたが、調香においてどこを出発点にしたらいいのか非常に悩みました。香りが存在しないものを表現し、既存のものとは違う香りを生み出し、しかもそれは情景を共有できるものでなければいけない。我ながらずいぶん困難なテーマにしてしまったものです。

そこでまず、香りを嗅いだ時に受ける純粋なイメージからキーとなる香りを選定してみようと考えました。その結果私が選んだのは、ジャスミンアブソリュートとイリスアブソリュートのアコード(香りの組み合わせ)でした。ジャスミンアブソリュートも、イリスアブソリュートも、単品で嗅ぐ機会はとても少ないかと思います。香料会社の人かパフューマーでないと、手に入れることができないとても希少な香料です(それ以外の方が必要な機会もありませんが...)。

ジャスミンアブソリュート:
溶剤抽出法という、特殊な溶剤を使った方法でジャスミンの花から香気成分を抽出します。フローラルの香りの中でも、ふっくらと肉厚で重厚感のある香りがします。綺麗なお花の要素よりも、グッと深くて少し動物的な側面を感じさせる力強さがあります。上質なジャスミンアブソリュートはとても貴重なで、1kgあたり300万円ほどで取引されています。ちなみにジャスミンティーの香気成分は、ジャスミンサンバックという香料で別の物です。

イリスアブソリュート:
7~8年熟成させたニオイアヤメの根っこから抽出される香料です。この香料は香料の中でもトップクラスに貴重で、1kgあたり1,000万円はくだらないんです。香りは風が吹き抜けるような心地よさがありながら、白くて固い木を連想するウッディ、薄紫色の穏やかな花弁を連想するフローラル、粉っぽくてふんわりしたパウダリー、といった様々な顔を持つとても複雑な香りです。

私がこれらの香料を選定する前に膨らませたイメージは、威風堂々と咲き誇る「さくらの大木」でした。天を染め上げるように満開の花を咲かすさくらのイメージです。そんな力強さをフローラル香として表現しようとなると、ジャスミンアブソリュートのような肉厚で重厚感のある香り以外には考えられませんでした。しかしジャスミンアブソリュート単体では、香りが重たくなりすぎてしまい、もう少し伸びやかさが必要でした。色に例えるならば、ジャスミンアブソリュート単体では鈍くて濃いピンク色です。そこにもう少し、淡さや儚さのような要素が欲しいと思ったのです。そこで、この力強いフローラルの良さを保ちながらも、全体を伸びやかに持ち上げてくれる香りとして、イリスアブソリュートを選択しました。

結果この2つのアコードによって、まさに天を染め上げるように咲く満開のさくらの風景を呼び起こすことができました。同時に、イリスアブソリュートのドライでスッとした香調の側面が、このアコードに儚げな刹那の風情を感じさせる印象をもたらしてくれました。

次回、サクラジャーナル #04「チーム”サクラ”を結成」は、2021年2月7日公開です。

プロフィール:
山根大輝@NY406
Founder&CEO。大学卒業後、コンサルティングファームで働きながらパルファンサトリで調香を学ぶ。好きな香料はプチグレン、ネロリ、ガルバナム。LIBERTAはグリーンタイプを愛用。

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