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2021.09.24

紅い香りのつくり方

こんにちは。LIBERTA perfume パフューマーの武宮です。

 

みなさんフラクタスの香りは、お楽しみいただけましたか?酷暑が落ち着き、少し冷たく乾いた秋風吹く今の季節は、どの香水を纏っても最高ですね。

 

そして、そんな季節に一際合うように作ったのがFRUCTUSです。今回のジャーナルではこのFRUCTUSの調香の裏側についてお話しをしたいと思います。

 

◎分解と再構築


まず、最初に普段どのように香りを作っているかを簡単にご紹介します。

 

調香の方法は、調香師の数だけあるように、それぞれの方法を持っていると思いますが、私はいつも大きく分けて4つのステップで行っています。

 

  1. コンセプトを3つから4つほどの要素に分解する

 

  1. 分解したそれぞれの要素にあった香料を5〜10種類ほど選出し、バランスを考え組み合わせた「ベース」を完成させる

 

  1. 完成したそれぞれのベースをTOP、MID、LASTの役割とバランスを考慮しながら、再度ベースの処方を組み換えて、ひとつの香りとして調合する

 

  1. ひとつになった処方を肌にのせ、香り立ちや残香を確認しながら、割合を変えたり、香料を追加したり、抜いたり、微調整を繰り返して完成です

 

このような、分解と再構築という方法により私は香りをクリエーションしています。

 

 

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◎トップノートとラストノートの決定


今回のフラクタスは、紅葉をイメージし、実りの秋をコンセプトにした香りです。また、日本の秋の綺麗さと一筋の郷愁のある二面性にも着目した香りになります。

 

この壮大なコンセプトをTOP、MID、LAST毎に以下の3つの要素に分解してみました。

 

①TOP:ドライで少し冷たさのある秋風ベース

②MID:燃え上がるように染まった紅葉ベース

③LAST:力強くも、秋の哀愁を感じさせるもみじウッドベース

 

①は、比較的早く決定しました。

秋風の爽やかで乾いた印象をブラックペッパーのスパイシーさで、少し冷たさのある部分をジュニパーベリーのスーッと伸びやかで少し苦味のある香りで再現。そして実は、メチルサリシレートという湿布などに使われている香料がほんの少しだけ入っていて、より秋風のひんやり感をだしています。

 

次にできたものが、③のもみじウッドベースです。

ウッディの香料にはたくさんの種類がありますが、今回メインで採用したものは、サンダルウッドとグアイアックウッドの2種のウッディです。グアイアックウッドの固くしっかりとした香調から「紅葉の木の雄大さや貫録」を。サンダルウッドの力強くもミルキーで柔らかい香調から「センチメンタルなイメージ」が今回のコンセプトにとても合っていました。

 

この二つの調和を取りながら、グアイアックウッドの固さから、サンダルウッドのミルキーな優しさにうまくバトンが渡るように処方を組み合わせています。2種のウッディの力強さと優しさのバランスを取る事で、日本の秋の美しさだけでなく少しの儚さを感じられるような香り立ちを目指しました。

 

 

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◎赤い香りってなんだろう?

そして、今回1番力をいれたのが②の燃え上がるように染まった紅葉ベースです。

 

私は、赤い香りを作ることはとても難しいと思っています。赤と聞くと皆さんは何をイメージしますか?りんご、いちご、血液、バラ、などこの世界には沢山の赤色があると思いますが、香料で赤を表現するとなると途端に数が少なくなってしまうのです。

 

さらに難しかったのが、この紅葉ベースに欠かせないもう一つの要素、ダークメープルアコードの存在です。「実りの秋」のグルマン要素を担っている部分にもなります。このダークメープルの香りを活かしながら赤さを出す事にとても時間を要しました。

 

そもそもなぜ、もみじにメープルなのかというと、カナダ原産のカエデから採取されるメープルシロップは馴染み深いですが、実は日本のもみじの木からも、少量ですがシロップが取れる事が調べて判明したのです。考えてみれば、カエデはもみじと同じ科の植物なので当然かもしれません。

 

そのユニークな関係性をインスピレーションに、

 

<もみじの木幹の中を流れるメープルシロップが「ガソリンのような役割」を果たし、より一層もみじの葉を炎のように紅く染め上げているのではないか>

 

という裏のストーリーで香りのイメージを膨らませてみました。

 

このイメージから、もみじの香りを作るならメープルの要素は必要不可欠になりました。そして、私たちの想像するメープルシロップは、ホットケーキにかける甘いお菓子のような香りではなく、もっと純度の低い荒々しい樹液のような香りなのではないかというイメージにたどりついたのです。

 

そしてこのメープルシロップについてたくさん調べた結果、メープルシロップにはそれぞれ純度によってランクが存在しており、純度が低いダークメープルシロップと呼ばれる物が存在する事が分かりました。早速このダークメープルシロップを手に入れた私たちは、昨年の秋には、毎日舐めながらアコードを研究しました。

 

そして、ついに完成したこのアコードは、エチルマルトールを中心とした焦げた砂糖の甘さに、コーヒーのような苦味のあるフェネグレックをアクセントとして加えることで構築されました。しかし、この単純な香料だけではダークメープルアコードは完成していません。

 

次はこのダークメープルアコードの骨格を「どのように赤くするか?」を追い求める工程に進みます。唐辛子の要素をいれたり、ローズで赤さを出してみたり、はたまたカシスやリンゴのような赤を連想させるフルーティの要素を加えてみたり様々なアプローチを行いました。

 

そして、何十もの試作を重ねついに、ダークメープルの要素を残しながら、赤さを出すことに成功したのです。ローズの要素でもあるダマスコンやスパイシーなクローブの要素、さらにシナモンなど十数の要素で香りに赤さを表現しています。

 

 

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◎赤い、いや紅い!


完成した紅葉ベースの香りを嗅いでみると、ダークメープルアコードの黒糖を思わせる深い甘さと、ダマスコンを主とした伸びやかな赤さを思わせるアコードの調和がとてもよく、燃えるように染めあがった紅葉の葉と木の幹を流れる荒々しいメープルの甘さから、赤さでは無く紅さをしっかりと感じ取れた事を鮮明に覚えています。

 

揃った3つのベースを組み合わせ、さらに微調整を繰り返してようやくFRUCTUSが完成しました。

 

つけた瞬間から、ドライで清涼感のある秋風が心地よく吹き抜け、次第にダークメープルアコードからなる紅葉の紅さが広がっていき、最後はグアイアックウッドの力強さとサンダルウッドの優しさが混ざり合い、ゆっくりとドライダウンしていく香りになりました。

 

なかなか、嗅いだことの無い香りだとは思いますが、きっと皆さんの心の中にある秋を思い出させる。そのような香りになったのではないかと思います。

 

もし、既にお手元にFRUCTUSをお持ちの方は、香りを嗅いで、今回紹介した3つのベースの要素を探してみてくださいね!

 

FRUCTUSを纏い、目を閉じれば、そこには一面の紅葉が広がるはずです。

 

是非、今年の秋はFRUCTUSと一緒に、心の中で紅葉狩りを楽しんでください。

 

プロフィール:
武宮 志昌

Perfumer。化学、生物系の専門学校を卒業後、パルファンサトリに入社。コンパウンダーとして4年間勤務しながら調香技術を学ぶ。好きな香料はバニラ、オポポナックス、ラブダナム。また、雨の香りがとても好き。

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