◎はじめに
新型コロナウイルスの流行によるリモートワークや外出自粛の定着が人々の住空間への関心を高めたことは、以前も書きました。
ソファや椅子など日常多くの時間を過ごす家具にこだわりを持つお客様が増え、青山の私たちのショールームに足を運んでくださる方々は特に、デザインやクオリティに対して感度の高いお客様が多くいらっしゃいます。素晴らしい家具は身体的な快適さを約束しますが、たび重なる緊急事態宣言の延長も受け「自粛疲れ」のような言葉まで聞こえてくるようになった今、住空間における心の充足も決して無視できない大切な要素になってきました。
そこで今回は、日常の中にアートを取り入れることで、心を豊かにしてくれるお部屋づくりのポイントをご紹介します。
◎アートは難しい?
アートという言葉は少しハードルの高いものに聞こえてしまうかもしれません。芸術という意味でもあり、創り手の哲学を何らかのかたちにしたものをアートと呼んでいますが、そのかたちは多岐にわたり、たとえば絵画にしても人物画、風景画、静物画、抽象画など様々です。そのような、なんだか高尚で高級なものに思えてしまうアート、家の中に置いても浮いてしまうのではないか、だいいち数十万以上もするようなものを気軽に置けないではないか、そのようなお声はよく聞きます。
これは半分その通りで、半分間違っています。たしかにアートはどんなかたちであれ少なからず個性を放っていますし、高額な物(それもほぼ際限なく)も多いのは事実です。だからこそ、お部屋の雰囲気や面積にマッチしたものを正しく選択すること、そして低価格のものでもちょっとした工夫を施して取り入れることで、一見難しく思えるアートを簡単にお部屋の中に取り入れることができます。
◎アートを取り入れるメリット
芸術品、美術品に触れることで心に彩りを与えるということももちろんですが、空間づくりのテクニックの面でも実は大きなメリットがあります。
部屋の中で、最も平面的でのっぺりした印象を与えるのは壁面です。置き家具には様々にこだわっていても、壁は手付かずというお部屋をよく見かけますが、あと一歩惜しいなという印象になります。
そんな時はお部屋の中に一点、視線を集中させるポイントをつくることで部屋全体が立体的に見え、天井高の低い日本の住居でも奥行きをもたせた空間にすることができます。
このように設けられた注目点のことをフォーカルポイントといい、建築や造園などさまざまな空間創造の中で重要な考え方になっています。平面的な壁にアートを設置することでそこに注目がいき、べたっとした印象を緩和してくれるのです。
◎壁掛けアートはプリント+フレームで
壁に掛けるアートというとやはり絵画が真っ先に浮かぶと思いますが、先ほど書いたように絵画と一口に言っても様々な種類がありますし、ちょっとした作品でも高額なこともあります。また、見に行くにしてもギャラリーや画廊など敷居の高そうな場所に行くのは抵抗があるという人も多いと思います。
わたしたちがおすすめしたいのは、絵画にチャレンジする前にまず、ポスターなどの印刷ものを飾ることです。プリントアートは大きさも様々で手軽なものも多く、絵画ほど大げさな印象はないので初めに選ぶには最適と言えます。ただ、ここで少し工夫をしてほしいポイントは、フレームにこだわるということです。少しデザインされたものや、色を合わせたものなど、無機質に見えるフレームも実はこだわれるポイントが多く、手軽なプリントものでもこだわった額縁に入っているだけでグっとクラスアップした印象になります。
とはいえ、いずれは本格的な絵画を飾りたいという方もいるでしょう。特に有名作家のものはそれだけでも強烈な存在感を放ちます。極論、美術館をイメージするならば確かにそこには絵画以外の余計なものは一切置かれていません。住まいにおいてそれは現実的ではないかもしれませんが、原則として、アートの個性が強ければお部屋は極力シンプルにしたほうがいいと言えます。
風景画は特に難易度が高いかもしれません。題材があまりに多岐にわたっており、画面上の情報量も多いため、相当考えて選択・配置しないととってつけたような印象を与えてしまいます。モノトーンのものや、モチーフがわかりやすいものから選ぶのが初心者にはおすすめです。
◎実際に配置してみよう
アンティークショップで、その昔ヨーロッパの百貨店で発売されたときのものであろう香水のポスターを見つけました。合わせるフレームもヴィンテージ感のある木材のものを選び、ウキウキしながら家に帰っていざ壁にかけようとしたとき、はたと手が止まります。どう置いたらいいのだろう、と。
壁を一つのキャンバスと考えたときに、そのどこに配置すればいいかというのは迷うところですので、いくつかのポイントをご紹介します。
ポイント①:目線の真ん中に
天井の高さと家具の位置などから目線を考え、ちょうど真ん中にくるような位置に設置することがおすすめです。ただ、日本の住宅は天井高が低いことが多いので、目線の真ん中か、少し上くらいを意識すると良いでしょう。
ポイント②:マスキングテープでシミュレーション
壁にどのようなかたちで掛けるかにもよりますが、頑丈に固定する場合そう何度もやり直しはしたくありませんよね。作品の四隅のサイズを、マスキングテープを使って簡易的にスミ出しすることで、貼ったり剥がしたりしながらじっくり検討を重ねて配置することができます。
ポイント③:複数置く場合はラインを揃える
壁面に幾つかアートを置く場合、配置の難易度はあがります。横一列に並べるとつまらないし、なんとなく段違いにはしてみたけどしっくりこない…そんな経験もあるのでは。複数枚を壁掛けする場合、どこか一辺や角を揃えることで統一感がでます。写真のようにアートのフレームの辺と置き家具の辺を平行にすること、またフレームの色と家具の色を揃えることで、複数の作品をまばらに置いているように見えても統一感のある空間を実現させています。
ポイント④:小物選びの感覚で
アートといっても難しく考えず、小物のインテリアやテキスタイルと同じような感覚で選ぶこともできます。お部屋の差し色として使ったり、テキスタイルとの色を合わせた作品を選んだりすることで違和感なく部屋の中に取り入れることができます。
◎アートはほかにも
さて、壁掛けの絵画やプリントを中心に話を進めてきましたが、オブジェなどの置きものにもチャレンジして頂きたいと思います。あまりに大きいものや、ゴシックな彫刻ものは家を選びますが、サイズの小さなものであればちょっとした小物を置く感覚で楽しむことができます。ワークデスクの上に置いてあげると、リモートワークのふとした瞬間にお気に入りのアートが目に入って心の癒しにもなるのではないでしょうか。
また、芸術品としてのアート以外にも、わたしたちREAL Styleは職人たちの手による工芸品や日用品もアートとしてご紹介しています。前回の記事にも書いたシアトルソファの座面を手掛けた丹羽ふとん店をはじめ、日常に宿るクラフトマンシップも大切にしています。それらはたしかにダヴィンチやミュシャのような圧倒的ネームバリューは無いかもしれませんが、職人たちが当たり前の仕事の結果として生み出している機能美や生活に宿る美もまたアートと呼べるはずなのです。
◎さいごに
今回は、アートをどのように取り入れるかということをインテリアブランドとして書いてきました。テクニックの話が多くなってしまいましたが、大前提は自分が好きなもの・愛せるものを手に入れることです。
アートとは、創り手の個性と自分の個性との対話のようなものです。ただでさえ画一的なモジュールの多い日本の住宅ですが、近年は家具すらも、巨大量販店による主張の少ない無難なものがシェアを拡大しています。機能性や実際性はもちろん大切ですが、コロナ禍によって要求された生活スタイルの変化が、それら以上に生活の彩りの重要性をおしあげ、そして生活の彩りは心の豊かさに直結することが見つめ直されています。
また、テレワークの普及は思わぬかたちで人々が個性の羽を伸ばすきっかけにもなりました。会社に行かなくなったことでそれまで遠慮していた香水を纏うようになったり、飲み会がなくなったぶん家での食事にこだわったりするように、人と接しないことで自分に正直になったという要素が少なからずあるようです。
アートこそもっとも自分の個性が表れるもの、ご自宅の中に取り入れることで「自分らしさを遠慮しない」住まいづくりをしてほしいと思います。私たちREAL Styleはいつでもそのお手伝いをさせて頂きます。
◆REAL Style / リアルスタイル
リアルスタイルは「本物がつくり出す、上質なライフスタイルを創造する」をコンセプトに展開するインテリアショップ。いつまでも変わらぬ良さを持った普遍性と時間の流れとともに風合いを増していく素材感を持ったプロダクトを丁寧に使い続ける中で見えてくる作り手と使い手、モノとヒトとの関わりを楽しむことで、日々の暮らしはどこまでも潤っていくという思いから、そういった「本物」を生み出す日本のものづくりの発信を通して上質なライフスタイルを提案。
URL:https://www.real-style.jp/