こんにちは、 リベルタパフュームの山根です。LIBERATIONコレクションの第四弾となるNIVALIS(ニヴァリス)を無事に発表することができました。「香りのないものに香りを与える」をテーマにした、2021年のコレクションの最後となる香りです。
今回も私たちの等身大な姿勢をお伝えすべく、いくつかジャーナルの連載をお届けします。実は他のページと比べて、あまりジャーナルの読者は多くありません。たまにちゃんと読者のためになっているのかな...?と心配になることもあります。それでもなお、私たちの伝えたいことを「自分たちの言葉」でお届けしていきたいというワガママのもとで、今回もジャーナルを書いていきますので、お付き合いいただけたら嬉しいです。
◎「雪」に至るまで
これまでのジャーナルの中で、LIBERATIONコレクションのテーマは私の原体験から紡ぎ出されていることをお伝えしてきました。しかし今回はNivalisにたどり着くまでに、自分の中で紆余曲折してしまう期間が多く、表現したいものがたくさん見つかる中で取捨選択することが大変でした。
まず、冬といえば!といっても過言ではないくらい代表的なモチーフである「雪」が浮かび上がってきました。香りがないものに香りを与える、という今年のテーマ性にもぴったりです。しかし同時に雪というテーマは、香水の世界でもすでに取り上げられてきたありふれたものなので、誰かの焼き増しをしても面白くないな、とも考えていました。2000年のFIFI賞を獲得したDemeter FragranceのSnowという香水ですでに完成されているようにも思えたのです。
その後、多くのテーマを考えてはボツにしてきました。寒い季節にこそ際立つ「炎」を表現してみてもいいなと考えたり、あったかい温泉なんかもいいよねとか、やっぱり商業的に考えてクリスマスツリーなのか...?など、少し迷走する期間を過ごしていました。
そんな自分らしくない迷う期間を過ごしたのち、自身の心が震える経験に立ち戻ろうと原点回帰した際に、改めて浮かんできたのは雪というインスピレーションでした。
雪景色の美しさには言葉を奪われます。音が消え去ったしんとした静けさの中に、一点の曇りもなく白く染め上げた情景は、自然の偉大さを伝えてくれます。またふかふかに積もった滑らかな雪面は、自然がもたらしてくれる芸術作品のような美しさが宿ります。
雪というきっかけをもとに、自分自身の原体験を振り返ってみることしました。ちなみに余談ですが、私はそんな雪面に我先にと足跡をつけたくなるような衝動を抑えることができないタイプの人間です。
◎雪を再現した香りではありません
FRUCTUSのジャーナルでも書いたのですが、私たちは何かを香りで再現しようとは考えておりません。香りがないものを、香水という形で表現するからこそ、自由な発想を大切にクリエーションをしたいと考えています。雪というインスピレーションを捉えた時に、実は私の中では冷たさとは相反するものが浮かんできました。
(まず先に断りを入れておくと、私は雪国の出身ではありません。生活をしている中で雪を経験することもありますが、あたり一面の雪景色を目の当たりにしたのは、自身が旅をする中で体験した中の出来事がほとんどです。なのであくまで一人の人間の感性だなと思っていただければ嬉しいです。)
私の中に浮かんできた情景は、コタツに入りながらみかんを食べている情景であったり、あったかい毛布にくるまって抜け出せない朝であったり、どこか寒さの中にある温もりを感じるものでした。そして自分ひとりが存在しているのではなく、誰か大切な人と一緒に過ごした思い出が思い出されるような感覚でもいました。
その記憶を紡いでいく過程で、冬という厳しい寒さの中にあって私は「人との温もり」を同時に記憶しているのだなと知るようになりました。そして雪というインスピレーションを持ちながら、人との温もりをつなぐような香りを創れるのであれば、私の原体験をそのまま紡ぎ出すことができた上で、世の中にも存在しない香りを提供できるのではないかと考えるように至りました。
こうして生まれたのが「雪という冷たさをとおして人肌のぬくもり」を知るというNIVALISの原型です。
トップノートには、冬の朝に吹き込む鼻腔をツンと刺激するようなひんやりした空気を表現するため、フェンネルやアルモアーズといった冷涼感のあるハーブを採用しました。そして日本らしい冬のエッセンスとして、ほんの少しユズも入れています。
そしてミドルからは、冬の朝に小米雪(こごめゆき)が舞うような雪景色を、ミモザやアンブレットシードで表現しています。ちなみに小米雪を表現するために、ミモザやアンブレットシードを含む、お米のようなアコードを開発してアクセントに加えました。肌にのせていただくと炊く前のお米のような印象を感じていただけるでしょう。
ラストにかけて、降り積もっていく滑らかな雪の様子、そして雪が素肌に溶け込んで人肌をあたためていく様子を、種々のムスクやバニラアブソリュート、フランキンセンスで表現をしています。美しくさまざまな表情を見せて変化するNIVALISが、そっと素肌をあたためてくれるような香りたちを、ぜひ皆さんも体感してみていただけたら嬉しいです。
◎ニヴァリスという名前に込めた願い
ニヴァリスという名前は、待雪草の学名である「Galanthus nivalis」に由来した、雪の周りにある、存在するという意味の言葉です。待雪草よりも、スノードロップの方が馴染み深い方は多いかもしれません。
スノードロップは日本では1月22日の誕生花で、まだ雪が降り積もる寒い季節に咲くお花です。西洋でも東洋でも、まだ寒い季節に人々の心に癒しを与えてくれる花として愛され、さまざまな伝説が残っている花でもあります。
キリスト教の伝説によると、楽園を追われたアダムとイヴが初めて迎えた冬の日、野原の草花が無くなった一面の雪原に嘆いていた所に現れた天使が、降っていた雪をスノードロップに変えて「もうすぐ春がくる」と慰めたという話があります。またドイツには、雪が自らに色が無いため色を分けてくれるように花に頼んだが拒まれ、唯一それに応じたのがスノードロップだった、という言い伝えもあります。
このような逸話から派生してスノードロップには「希望」「逆境の中の希望」という花言葉がつきました。
私たちはこのNIVALISに、雪解けへの願いを込めています。それはコロナ禍にあって、大切な人に会うことのできなかった長い冬の雪解けを指しています。徐々に普段の生活を取り戻しつつある中で、誰か大切な人との触れ合いを懐かしむ機会も増えてきましたが、まだまだ余談を許さない日々が続いてしまうかもしれません。
しかし冬は、永遠ではありません。この香りが、私たちにそう思い出させてくれて、あなたと大切な人の距離をちょっぴり縮めてくれる存在になれるようにと願っています。
小さなパフューマリーが創るひとつの香りとして、ストーリーや届けたい想いが存在してなくても、この香りを纏いたい!と感じていただけるような心地よい香りになったと自負していますが、また一方で、このような想いに共感して纏っていただく方が増えることも、新しいパフューマリーとしてのあり方として期待するところでもあります。
皆さまにこのNIVALISを纏っていただけることを楽しみにしております。次回のジャーナルでは、詳しい香りのアプローチを今回も共同クリエーションした武宮よりお伝えさせていただきます。
プロフィール:
山根大輝@NY406
Founder&CEO。大学卒業後、コンサルティングファームで働きながらパルファンサトリで調香を学ぶ。好きな香料はプチグレン、ネロリ、ガルバナム。LIBERTAはグリーンタイプを愛用。