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2021.09.15

【前編】フラクタス発売記念特別インタビュー

大阪は箕面で、伝統の味を受け継ぐ人々がいる。紅葉の名所であり、古来よりの修験道でもある箕面滝へ向かう坂道に店を構える久國紅仙堂は、創業以来80年にわたって伝統銘菓「もみじの天ぷら」を作り続けている箕面随一の老舗だ。

そんな久國紅仙堂の「もみじの天ぷら」と、リベルタパフュームの新作香水「フラクタス」との特別コラボが実現。その裏側を探るべく、久國紅仙堂の代表、久國節子さんと娘の香保里さんにお話を伺った。

伝統銘菓と香水、味覚と嗅覚、老舗とスタートアップ企業……一見対照的にも思える両者が‶日本の秋″を道しるべに、ものづくりに懸ける想いや飽くなき挑戦について語る。

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【代表の久國節子さんとお店の前で】

 

——まずは「もみじの天ぷら」と久國紅仙堂について教えてください。
 

久國 節子さん(以下節子さん):もみじの天ぷらは、箕面山を修験道場として開いた役行者(えんのぎょうじゃ)が、滝に映えるもみじの美しさを称え、灯明の油でもみじを揚げて旅人に振る舞ったのがはじまりと云われています。以来、箕面の伝統銘菓として続いており、箕面大滝も『日本の滝100選』に選ばれていますから、箕面では滝と紅葉とは切っても切れない縁があります。

私たち久國紅仙堂はこの地で1940年に創業しまして、土産物としてもみじの天ぷらを扱うお店では最も古い歴史を持っています。

箕面は四季折々自然が綺麗ですけれども、やはり紅葉の秋がいちばん美しくて、観光に来る人も多い。日本の紅葉というのは世界の中でも美しいものなんだと、海外から取材に来られた方にも教えてもらいました。しかもその美しい紅葉の場所で、もみじを揚げて食べているというので、外国の方にも興味を持ってもらうことも多いです。メープルつながりでカナダのメディアさんも来られましたね。

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【阪急箕面駅から箕面山へのぼる坂道のすぐ入り口に久國紅仙堂がある。紅葉の名所らしい紅いのぼりが風に揺れると同時に、もみじを揚げる香ばしい香りが漂う。】


——節子さんは50年以上にわたって伝統の味を守ってこられたということですが、そのこだわりや工夫について教えてください。
 

節子さん:もう55年になりますね。嫁いでくるまでもみじの天ぷらも知りませんでしたよ。仲人さんは「手先が器用で明るければええ。」というので探してきたと後で聞いて、なんやねんそれと思いましたけど(笑)

もみじの天ぷら自体は1300年前からあると言われていますが、それを土産物としてちゃんと美味しく食べてもらうためにはいろいろな工夫やこだわりが必要でした。

第一には材料、そして油切りです。材料に使うもみじは、専用の山で木から自家栽培をしています。日が当たるとだめですし、水はけがいいところでないとだめ。そういった難しい条件を満たした山で接ぎ木をしながら、材料となるもみじを育てています。

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【代表の久國節子さん。北部らしいゆったりとした語り口ながら、その手は50年以上にわたって伝統銘菓を作り続けてきた誇りと努力がにじむ職人の手だ。】


 

——普通のもみじとは違うものなのですか?
 

節子さん:普通のもみじは紅くなりますが、わたしたちが使うものは黄色く色付きます。あとは葉脈が薄く、葉が柔らかいのが特徴で、この品種が食用に適しているんです。それを1年間塩漬けして、特製の衣をつけて、菜種油で揚げます。時々、「落ち葉とちゃうん?」とか「落ち葉拾ってうちでやってみたけどあかんわ。」っていう方がいますけど、それはもう先代たちが一生懸命考えた作り方ですからね(笑)

それから油切りというのは、揚げたあとの余分な油を取ることです。ただ置いておいたり拭いたりするだけではだめで、揚げたての熱いうちにやらないといけない。専用の機械を使って油切りをきちんとやることで油っぽさをなくし、何枚食べても飽きずに美味しい味を実現しています。

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【こだわりの材料と製法によって作られるもみじの天ぷら。老舗であっても変化をおそれずに美味しさを追求する姿勢が、伝統の味を守ることに繋がるという。】

 

——まさに手間ひまかけた伝統の製法ですね。それでも時代によって変化したことはあるのでしょうか。
 

節子さん:うちは伝統銘菓ではありますが、伝統は続かなければ意味がない。すると一番大事なのはやっぱり美味しさです。時代によって人の味覚も変わりますから、衣の配合や砂糖の種類なども少しずつ変えてきました。新しい味も積極的に開発しています。色んなアイデアを試して失敗することもありますが、「これ美味しいわ」と喜んで頂けると嬉しくて頑張れます。味もそうですが、パッケージも大事ですよね。観光地の土産物、というだけでなく贈答品としても使って頂けるようなデザインも考えました。

 

——いかに手間を省くかということに目が向きがちな現代ですが、手間を惜しまないことの価値はどのようなところにあるのでしょうか。
 

節子さん:どうやったら手間をかけずにやるか、ということも実はまた難しいんです。たとえば材料には葉っぱの先までピンと伸びた、形の綺麗なもみじを使わないといけないけれど、でもこれを機械でプレスかなんかして、全部が判で押したように揃っているのもつまらない。色々オートメーション化できないかということはもちろん考えましたけど、箕面の美しい自然のものを扱うには、やっぱり手作業でやるのがいいという結論になりました。だから、手間のかかることが価値というより、作るものにとって一番良いやり方が、大変だけどこのかたちなんですね。

 


——香水をつくることもまたたくさんの手間がかかりますよね。
 

山根:香水の場合はとにかく原料の調達が大変です。サンダルウッドという香料一つとっても、どこ産のものを使うかによって金額が何倍にも変動したり、今も中東情勢が不安ですが、輸入の制限などそういったこともじかに影響します。

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【リベルタパフューム代表の山根。】


 

久國 香保里さん(以下香保里さん):先ほど専用の山で材料となるもみじを栽培していると言いましたけれど、これも気温や気候によって取れ高がかなり左右されます。実際、予想外の雨や暑さでほとんどダメにしてしまったこともありましたので、新たにもう1か所で栽培を始めています。香水もそうだと思うのですが、とにかくものづくりは原料が命ですから。お砂糖や小麦粉も必ず指定銘柄を使いますし、保存も半地下のところで湿度管理をしています。

 

節子さん:ただ、ここ数年の気候の変化は顕著なものがあって、箕面にきて最近まで夜にクーラーをつけないといけないなんてことはなかったです。この先ますます気温が上がったり気候が変になったりするのでは思うと不安はあります。

 


——美しい面も厳しい面も含め、箕面の自然と深くつながっているのだと感じます。その中で何度も迎えている箕面の秋は、久國さんにとってどのような季節ですか。
 

節子さん:もう、秋というのはそれこそ地域や家中の人間がピリッとしますよ。収穫、塩漬け、製造、販売が全部いっぺんに来ますでしょう。特に収穫は時期を逃したら大変です。雨風が吹いて落ちた葉をちょっとでも放っておいたらあっという間に傷んでしまう。よくよく天気を見ながら、今だ!という日にわっと収穫して、洗って、塩漬けしてという作業は、もうどんなことがあっても真っ先にやらないといけないんです。だから夫も子も孫も、この日はみんな予定を何も入れずに家族従業員総出でやります。

 

——のんびり読書、食欲の秋などとは言っていられないですね。加えて、実際に客足がいちばん増えるのもやはり秋ですか?

 

節子さん:本当そうですね。箕面は秋以外も綺麗ですけれど、やはり紅葉の名所ということで電車や車で方々からみなさんいらっしゃいます。奥には箕面温泉もありますしね。私たちの店もテレビの取材で取り上げて頂くことも何度かありました。ただ、どうしてもそこまで大量に作ることができないので、駅から大滝までの行きしなは山のように店頭に置いてあっても、帰りに通る頃にはもう品切れで買えなかったというお客様も毎年いらっしゃいました。心苦しいですけれども、まあそんな様子でとにかく秋からお正月くらいまではもう、この地域はみんな大忙しです。

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【老舗の風格漂う久國紅仙堂の看板。家族や従業員が一丸となって伝統を守っている。】

 

——今回香水とのコラボレーション企画と聞いて、率直にどう感じられましたか。
 

香保里さん:お話を頂いてまず、なにそれ新しい!面白そう! と思いました。全く想像できなかった分野でのコラボ。発想がすごい、という反面、食品と香水を一緒にしていいのかという不安もありましたが、実際に香りを試させてもらったらとてもいい香りで、なにより既成概念を変えていくことや、味覚と嗅覚で秋を楽しむというのが面白そうだと思いました。

 

——歴史ある老舗として、新興のスタートアップ企業とのコラボに抵抗感などはなかったのでしょうか。
 

節子さん:若い人の一途さを見ると応援したくなりますし、若いからとか新しいからとかいう理由で一概に決めつけてはいけないですよ。期待する気持ちの方が大きいです。

 

香保里さん:最初は、若くておしゃれな会社でちょっと気後れしちゃうなと思いましたけど、山根さんとお会いして香水に対する考え方、製品に対する深い想いをお聞きし、もの作りへの真摯な姿勢に共感を得ました。

私たちは箕面にもみじ狩りに来て頂き、お客様に視覚と味覚でもみじを楽しんで頂きたいというコンセプトに対し、リベルタさんは嗅覚と味覚で秋を楽しんで頂こうと考えられたことにも通ずるものがあると思い、お受けすることにしました。

業種は違えど、ものを作るという点で私たちにも通ずるところがあるなと。企業理念というか、ベースにそういった似通ったものがないとコラボは難しかったのではないかと思います。

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【ほのかな甘じょっぱさがクセになるもみじの天ぷらはどんな飲み物にも合う。】

 

山根:本当にありがとうございます。香水を扱っていると、食品を扱う会社さんから敬遠されてしまうことが多いので、正直オファーしたら怒られるんじゃないかと思っていました(笑)。香水も自然の素材は使いますが、そうではない人工的な合成香料なども使うので、空間にとって異質なものに感じられることが多いんです。

その中でも我々は自然の素材感を大切にしながら、いかに香水というものを生活に馴染ませていけるかを常に考えていました。

 

香保里:びっくりはしましたけど、とにかく面白そうだなと思いました。今回のもみじの香水も、葉っぱそのものではなく紅葉の秋のイメージの香りと聞いて、いったいどんな香りなんだろうかととにかく試してみたくなりました。実際に嗅ぐと私たちの想像する紅葉とはまた違う情景が浮かんできて、紅葉や秋の表現としてこんなこともできるのかと感心しました。

 

山根:最初節子さんもおっしゃっていましたが、紅葉の美しさを愛でる文化は欧米はじめ海外にはあまりないようで、日本人の僕たちだからこそ表現できるんじゃないかと考えました。同時に、秋の儚さとか寂しさのようなものとの二面性も表現したかったんです。

 

香保里さん:実際に試させてもらって素直にいい香りだと思いましたよ。すこし爽やかな空気もありながら、大人っぽい深みのある甘さというか、秋の憂いのようなものを感じました。

 

山根:ありがとうございます。爽やかな部分は黒コショウから採れる香りかもしれませんね。晩夏の乾燥した涼しい風を、黒コショウのひやりとした香りで表現しています。

 

節子さん:黒コショウから香水ができるんですか、驚きです。

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【伝統銘菓と香水、分野は違えどものづくりに携わる者同士話題は尽きない。】

 
聞き手・文:ベセベジェ

撮影協力:久國紅仙堂 

〒562-0001 大阪府箕面市箕面1丁目1−40

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