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\【新作】プレタポルテ2022/
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2021.12.09

冷たくて暖かい香りのつくり方

こんにちは。パフューマーの武宮です。

いつのまにか、コートを羽織らないと外に出られないほどの寒い季節になりましたね。冬が来たという事は、ついに、LIBERATION コレクション4つ目の香りNIVALISの発売が開始されました。

みなさんは、もう香りをお試し頂きましたでしょうか?

NIVALISは、雪をコンセプトにし、降り積もる雪の中で人と人が温め合い感じる事のできる人肌の香りに着目したスキンフレグランスになっています。

今回は、このNIVALISの調香背景についてお話しさせていただきます。

 

◎雪への挑戦

皆さんにとって雪は、どのような存在でしょうか?

埼玉県で育った私にとって、雪はあまり親しみのない存在でした。ただ、埼玉の地に時折り降り積もった際には、我を忘れて犬のようにはしゃぎ、楽しんでいたと思います。

そんな雪が、今年のコレクション最後のテーマに決まった瞬間、これは、新しい解釈の雪の香りに挑戦できるぞというワクワク感と、ひまわりやさくら、もみじと違い、自分にとってあまり親しみがない雪の香りを作るという事への少しの不安がありました。

この一片の不安を取り除くべく今回のクリエーションは雪について、とにかく、とことん調べる事から始まりました。

 

◎NIVALISのBase

前回のフラクタスの記事をご覧いただいた方は、もう既にご存知かと思いますが、私は香りを作る時にまず、コンセプトを3つから4つのベースに分解しそれを再構築する方法で調香をしています。今回も雪というコンセプトを3つのベースに分解してみました。

冬の早朝をイメージした鼻を刺すほどの冷たい空気感が漂う『冬はつとめて』ベース

まだ固さのある小さい雪が降り始めているイメージの『小米雪』ベース

そして、シルクのように柔らかくふわふわと降り積もった『パウダースノー』ベースです。

この3つのベースより、TOPからLASTにかけて雪が降り始めてから次第に降り積もるまでの流れを香りに落とし込みました。

 

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◎優しい柚子

Topに香る冬はつとめてベースは、ミンティで清涼感のあるEucalyptusとヨモギ科のArmoiseという、苦さと酸っぱさのあるハーバルノートの香料がキーノートになっています。この2つのアコードから、早朝に、玄関を開けた時に感じる、キンッと張り詰めた空気感を表現しています。

また、そこに、冬の風物詩の柚子の香りをほんのりと添えることで香りが、より冬らしく仕上がったのではないかと思います。しかしこのベースで一番時間をかけたところは、柚子の調整でした。あくまで柚子は脇役で、探せば確かに奥に存在していると分かるくらいの塩梅に仕上げたかったのです。

天然の柚子からはYuzu Essが抽出されたり、各香料会社からはとても精巧なYuzu Baseが作られているのですが、どれも香り立ちが良く、冬の空気感よりも柚子が勝ってしまっていました。今回はこの柚子の香りがほんのりと香りだつように、あえてYuzu Ess もYuzu Base も使用せず、Lemon EssとMandarinEssとBasil methylchavicol(バジル)の3つの香料で柚子を表現しています。

このようにして、3つのバランスを丁寧に取ってあげた事で、穏やかなユズアコードが誕生しました。
 

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◎ライスアコード

そして、なんといっても今回の主役はライスアコードです。

ライスアコードと聞くと炊き立てのお米の香りを想像する方も多いと思いますが、NIVALISに採用されたアコードは、炊く前のまだ固さの残る生米の香りです。そもそもなぜ、生米なのかというと、雪について色々調べている際に発見した小米雪という存在にインスピレーションを受けています。

 

小米雪は、米粒くらいの小さくさらさらとした細かい雪の事を指します。

 

もちろんこの雪からはお米の香りはしませんが、小米雪という名前とまだ降り始めたばかりの固く小さな雪と生米の固く少しパウダリーな甘さのある香りに共通点を見出し、もしこの降り始めた小米雪に香りがついていたらとイメージを膨らませていきました。

 

そして、このライスアコードを作製する際に必ず使いたいと考えていた香料がAmbrette Seedです。Ambrette Seedは、植物性ムスクとも呼ばれていて、最初は固さのあるアーシーな香りですが、時間が経つにつれて、ふんわりとした柔らかいムスク調の香りへと変化していく香りです。私の中では、お米を研いでいる時の香りにとても近いと感じていました。

 

また、そこに少しモソモソとしたイメージのMimosa Absと少しダスティな香調のCyclamen Aldehydeを使う事により、Topの清涼感のあるハーバルでミンティな香りから、少し固さのあるパウダリーな香りに移ろぎ、まさに降り始めた小さな雪と静かに存在する生米の香りになったのではないかと考えています。

 

◎人肌と雪の暖かさ

LASTからグンとのびてくるバニラとムスクの柔らかく繊細な香りはパウダースノーベースです。ライスアコードで表現した固く冷たい香りから徐々に優しくそして柔らかくふんわりとほどけていくようにクリエーションしました。

 

このベースではバニラアブソリュートの上品な甘さと煙たさを持った香りを基調としているのですが、さらにそのバランスを整えるのに、Etyhl Vanilinと呼ばれるVanilinよりもさらに甘くそして力強い香料を使用しました。Etyhl Vanilinは、バニラの甘さや柔らかさと同時に少しのあたたかみを感じる香料です。

 

なぜ雪なのに暖かい香りを選ぶのかというと、私は、降り積もった雪にあたたかみを感じているからです。空から降りそそぐ雪に対しては、冷たいイメージしか無いのですが、その雪が時間をかけて降り積もると、まるでふかふかの羽毛布団のように、中に熱をため込み私たちを優しく包み込んでくれるような暖かいイメージがあるのです。

またそれは、今回のコンセプトにも繋がっていきます。このNIVALISの香りは、単に雪の香りを表現したのではなく、雪を通して初めて感じ取る事のできる人肌のあたたかさに着目した香りになります。

 

降り積もった雪のあたたかさと、人肌の暖かさをEtyhl Vanilinと様々なムスクを使い『パウダースノーベース』として表現しました。

 

◎完成したNIVALIS

たくさんの時間をかけて、ようやく3つのベースが完成し、最後に、微調整を何十回と繰り返し、今回も無事完成しました。

 

つけた瞬間の伸びやかなミンティでハーバルな香りは、徐々に降り始める固く冷たいさらさらとした小米雪と生米の甘くパウダリーな香りに変化し、時間が経つにつれてバニラやムスクのシルクのような柔らかい暖かさに包み込まれます。

 

そしてこの香りは、肌に乗せて初めて完成される香りと言っても過言ではありません。ライスアコードをはじめ、ムエットでは認識できないほどの繊細な香りがいくつも隠れているのです。ぜひ皆さんも、肌の上でゆっくりと色んな香りを探しながらお楽しみいただけたらと思います。
 

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◎最後に

長くなりましたが、このジャーナルでNIVALISという香りがより好きになってくれたらなという思いをこめながら書かせていただきました。

 

今回で、季節を通して「香りが無いものに香りを与える」という今年のチャレンジは終了となります。サクラマグナから始まり、今回の二ヴァリスまで本当にあっという間でした。ちょうど一年前、代表の山根から「サクラマグナのアコードはイリスとジャスミンでいこう」と言われたのが昨日のことのように感じています。

 

私は今年のコレクションを通して、改めて調香の楽しさと難しさを知る事ができました。香りを作るという事は楽しい事だけではなく、時には香料たちに振り回され、地道な微調整を永遠と繰り返すような、とても大変な瞬間もあります。ただ、その地道な作業を行う事で、初めて知る香りがある事も、今年のコレクションを通して気づかされました。

 

こんな私の経緯を踏まえて、NIVALISについて最後にお伝えしたい事は、寒さは一見辛いですが、その寒さの中でしか知り得ないあたたかさがきっと存在するという事です。

この香りは、新しい発見が溢れていると思っています。

NIVALISを通して、またLIBERATIONコレクションすべての香りを通して、そんな新しい発見をこれからもお楽しみ頂けたらたらとても嬉しいです。


 

プロフィール

武宮 志昌

Perfumer。化学、生物系の専門学校を卒業後、PARFUM SATORIに入社。コンパウンダーとして4年間勤務しながら調香技術を学ぶ。その後、LIBERTA perfumeにパフューマ―として参加。好きな香料はバニラ、オポポナックス、ラブダナム。また、雨の香りがとても好き。

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