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2020.01.18

季節を纏う

香水は4本持っておけという。要するに季節ごとの1本を持っておいたほうがいいということのようだ。

すると大抵、春は華やか、夏は爽やか、秋冬は甘い・重い香りに目が向くと思う。これはきっと、日本人にとって季節を感じさせる香りや空気感がある程度共通しているからだろう。桜や梅、雨上がりのアスファルト、青々とした草いきれ、金木犀、冷たく乾燥した空気…。こう聞くとそれぞれの香りをすぐに思い浮かべられると思う。さらに言えば永らく四季の中で生きているわたしたちは、香りという感覚で古の人々ともつながっている。

春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やは隠るる
              —凡河内躬恒

の和歌はいま詠んでも決して遠いところにない。香りは時空も超える。
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さて、今回はその中でも冬の香りについて。上にも書いたように、寒くなるほど甘く重い香りが使いやすくなる。グルマン系やオリエンタル系と呼ばれるグループがそれだ。筆者も甘い香りは大好きで、バニラやシナモン、アンバーといった香料には目がない。

ただ、冬のある日、はたしてわたしたちは一日中外にいるだろうか。電車や車の中、オフィスや教室、ショップやレストランで過ごす時間が大半ではないだろうか。そして、寒くなればなるほどそれら空間の中は暖房で暖かくなっていないだろうか。
そう考えると、寒いからといって甘く重い香りばかりを纏っていると、屋外では良くとも暖められた室内では強く香り過ぎてしまうこともある。

そこで季節本来の香りに立ち返って、たとえばあえてシトラス香に目を向けてみる。夏のイメージが強いシトラスだが、みかん、ゆず、レモン、ブシュカンなどは12月が旬だ。これら冬の柑橘を中心に、ジンジャーやベリー、ペッパー、ローズマリー、サンダルウッドやアンバーなど暖かみのある香りが加わると、冷たい外気にはよく映えて、暖かい室内でも柔らかに香る素敵な冬の香水になる。季節感を手掛かりに香料に注目してみると、その香水の持つ情景や自分の思い出がふっと浮かんで、選ぶときの助けになることがある。
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日本は香水後進国だという。食文化や入浴の習慣の違いから西洋に遅れたという論をよく見かけるが、筆者は、それ以前に日本が香りにあふれているからだと思っている。四季の訪れを香りで感じ、旬を楽しみ、生活の折々で香りに触れていたからこそ日本人はみずから香りを纏う文化が育たなかった。そんな日本に香水文化が普及しつつある今、季節そのものを纏うというのも、わたしたち日本人らしい「粋」な楽しみ方かもしれない。

街を行き 子どものそばを通るとき 蜜柑の香せり 冬がまた来る
              —木下利玄

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