インタビュイープロフィール
□矢部翔太 Shota Yabe
アートディレクター&デザイナー。大学卒業後、大手広告代理店に入社。アートディレクターとして広告、CM、企業ブランディング等のデザイン・アートワークを手掛ける。
好きな香料は白檀とアイリス。
□山根大輝 Daiki Yamane
Founder&CEO。大学卒業後、コンサルティングファームで働きながらパルファンサトリで調香を学ぶ。2018年、香りを専門とするヤマネコ株式会社(現Scentopia)を創業。
好きな香料はプチグレン、ネロリ、ガルバナム。
―リニューアルを決めた理由について
山根:振り返ってみると、BSSはとにかくオーダーメイドの香水を楽しんでもらいたいという思いだけで進んでいました。だからウェブサイトはじめ世界観はオーダーサロンのようなシックな感じの、自分好みの顔つきだったんです。
ところが運営していくうちに、本当に色々なバックグラウンドを持ったお客様が私たちの香りを手に取って下さることがわかりました。ジェンダーや国籍、趣味趣向は多様でも、どこか自分のこだわりを持っているような、そういった方々をもっと広く受け止められるようなブランドに生まれ変わりたいと思い、自分が好きだったエクスクルーシブな雰囲気を脇に置いて、いわばインクルーシブなブランドを目指すことにしました。
—矢部さんにブランディングを依頼された経緯は?
山根:それまでBSSのお客様として何回かお会いはしていたんですが、大きな理由は3つあって、1つはめちゃくちゃ香水を愛している方なので同じ目線に立って共通の話ができる人だと思ったこと。それから、すでにBSSを知ってくれているのでやりたいことの文脈を汲み取ってくれるという期待がありました。3つ目は矢部さん独自のオリジナリティをSNSとかでも拝見していて、自分が持っていないものだなと思っていました。いままで自分のやりたいイメージでやってきたブランドだから、そういう矢部さんのオリジナリティがリベルタに相乗効果をもたらしてくれるんじゃないかと思ったんです。
—山根さんが惹かれた矢部さんのオリジナリティとは
矢部:すごく難しいこと聞くね(笑)
山根:矢部さんってやっぱりおしゃれで、デザイナーとして信頼できるプロであるというところもそうなんですが、なんか毒っていうかクレイジーっぽさがあるんですよ。ダークなんだけど、陰鬱じゃなくて、コミカルさとかシニカルさが上手くユーモアに昇華されているというか。そんなところに惹かれました。
矢部:そんな風に言われることないからありがたいです。
山根:なんか恥ずかしいですね、修学旅行の夜みたいで(笑)
ただ、僕が声をかける前に、矢部さんからも自身でブランドを作りたいっていう相談も受けていたんです。
矢部:そうそう、香水ブランドを作りたくて、どうしたらいいのって聞きにいきました。
山根:で、相場のこととか業界のこととか話しているうちに、やっぱり道のりは険しいよって話になっちゃった。でも、それで僕の中でも矢部さんと一緒に何かやりたいっていう思いが強くなりました。そこである日食事に誘って、矢部さんのブランドに向けてお手伝いもするから、うちと一緒にやらないかって話しました。
矢部:正直その誘いが来る日、今日なんか来るぞって思いました。お笑い芸人がコンビ組む瞬間ってこういう感じなのかなって(笑)
—誘いを受けて矢部さんの率直な感想は?
矢部:わたしは基本、やりたいことしか仕事にしてきませんでした。学生時代はデザインやって、広告の仕事について7年ほど。でもなにか次の新しいことをしたいっていう思いがあって、それが香水でした。ただ実際、香水のブランディングという話になった時、正直不安もありました。これまで自分がやってきた広告の世界は一瞬で消費されていくものを作り続ける。でもブランドは一度生んだものが長く愛されなければいけない。その違いを自分は越えられるのかなって。けど、そういうプレッシャーも含めてやりがいのある仕事だと思ってお受けしました。
―リベルタという名前に込めたメッセージやブランドのコンセプトについて
矢部:ネーミングについては、山根さんと二人でたくさんブレストしながら、わたしが長く付き合っているコピーライターにも相談しました。10年先まで愛される名前がいい、という方向性をもとに山根さんの理念を伝えたときに、彼女が最初に持ってきたのがリベルタだった。
山根:香水って世の中にたくさんあるけど、決まりごとのようなものもというか、作る側にも使う側にも不自由な部分が実は多い。だから、人々にもっと自由に香りを楽しんでもらいたい、もっと香水が日常の中にあってほしい、そして自分も自由に香りをクリエーションしたい、そういう思いでそもそもこの事業を始めました。
矢部さんとのブレストの過程で「香りのデモクラシー、香りの民主化」っていうキーワードが出てきたとき、あ、これが自分のやりたいことだなってビビッときたんです。言い換えれば、「人々の生活に香りを取り戻す」という自分の抱いていた漠然としたイメージがこの言葉に集約されていると思いました。
矢部:語感もいいしっていうことで、すんなり決まりましたね。そこからブランドとしてのビジュアルを考えるときも、そのイメージを基にとにかく生まれ変わったぞ、というのをアピールしたくて、具体的に言うと明度をぐっと上げました。それまでのBSSがシックで明度が低い高級感のある雰囲気だったから、まさに民主化!っていう感じで誰でもとっつきやすいような明るい顔つきにしてあげようと。だからロゴも日の出のイメージです。
ボトルはあまり他ブランドにない形なら何でもよかったんですが、コロっとしてて手のひらの上で可愛くおさまるようなものが良いなって。
—民主化というキーワードは、香水の世界ではあまり聞き馴染みのない言葉ですね
矢部:ある意味広告の基本です。関係ないもの同士をぶつけることでキャッチ―にする。
山根:でも、間違いなく他のブランドが今まで掲げていないことです。唯一フレデリックマルが近いかなと思いますが、彼らがやったのはパフューマ―(調香師)の民主化です。ただ、確かに民主化という言葉はやや堅かったので、もう少し解釈を広げて自由という意味に置き換えたリベルタという名前を採用しました。
—口コミを拝見しても幅広い層が購入していますが、フォーカスしているターゲットは?
山根:特にここ、と限定しているわけではありませんが、たとえば香水に興味はあるけどしっくりくる香りになかなか出会えないと感じている方、あるいはお店には行ってみたけど種類が多すぎて何を選んだらいいかわからないという経験のある方にはぜひうちの診断と香りを試していただきたいです。せっかく香水を買うのにブランドの知名度やパッケージの可愛さだけで選ぶのはもったいない。
—オーダーメイドという響きには、既存の香りに満足できない人が行きつく領域のような上級者のイメージがあるようにも思いますが、あえてそう謳う理由は?
山根:そこについては価値観のパラダイムシフトが起きていると思っています。自分だけのオンリーワンというか、本当に良いものを見つけたいというミレニアル世代が増えてきた中で、世の中の多くのものがパーソナライズ化されている流れがあると思います。上級者でなくとも、一発目からオンリーワンにたどり着きたいと思っている人が多いのではないでしょうか。
矢部:それに、なにか一味違ったおしゃれなものが欲しいけど、何を信頼したらいいのかわからないっていう人も多い。だからオーダーメイドという要素だけでなく、リベルタが掲げた10万件のデータ(※編集注:10月現在25万件を超える)に基づくっていう言葉が効いている気がします。みんな診断って好きだから。
山根:リベルタの診断って、お客様のイメージを擬人化させる作業なんです。好きな音楽とか服装の質問には実はそういう意図があって、お客様が思い浮かべている姿にそのペルソナを近づけることで納得感のある香りが提供できているのではと思っています。そういう意味では、手にする香りは別に自分とイコールじゃなくてもいい。それこそ推しでも、自分の正反対でもいいわけです。香りを選ぶお客様にとっての自由な楽しみ方をリベルタは大切にしています。ただ、それは決してお客様任せというわけではない。リベルタに興味を持って下さった方々とSNSやイベントを通して語り合いながら、香りのプロとして役に立てることは決して少なくないと思っています。
次回は、2人と香水の関わりについてさらに深掘りしていきます。
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矢部翔太:@pyabes_voice
(聞き手・文:ベセベジェ@dantalionperfu6)