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ジュースは秋の色

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2020.09.07

9月になった。暦の上では立派な秋である。四季の中で、秋というこの歯切れのよい響きの言葉が持つ魅力はいったい何だろう。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋、睡眠の秋と、およそ地上にある楽しそうなことのほとんどが秋に詰め込まれているようだ。食欲、というのは多くの果物や魚が旬を迎えるからだと思うのだが、とはいえこのテクノロジー溢れる現代で旬の概念はもはや平らになりつつあり、いやいや、夏に比べ日照時間が短くなることでセロトニンの分泌量が落ちて食欲が増すのだという科学的な説明のほうがそれっぽく聞こえてしまう。もし食欲の秋がセロトニンの秋という呼び名に変わってしまう時が来たら、それが世界の終わりの始まりかもしれない。
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Twitterを眺めていると#あなたの秋の香りはというハッシュタグが流れてきた。往古、人々はふと吹いた風の涼やかさや桐の葉の落葉で秋の訪れを感じたというが、令和の愛香家はハッシュタグと投稿された方々の素敵な香水リストや写真で秋を知る。拝見していて、思ったことがある。ジュース(香水の液体)の色が一様に濃いのだ。多くの写真で琥珀色や茶系の濃い色のジュースが目立っている。もちろん色のみで選ばれたのではないと思うのだが、人々の間で秋に纏いたくなる香りの色が似通っているというのはおもしろい。作り手側にすでに共通言語としての秋があって、ジュースの色をその思う秋に沿って決めているのだろうか。それとも使い手側の心の作用が自ずと同じような色を引き寄せているのだろうか。

と、さも深大な謎のように書いたが、これにはある程度の答えが出ているといっていい。ジュースの色を決定せしめるパターンは大きく分けて二つある。一つは、コンセプトや製品イメージに合わせて着色する場合。たとえば赤ワインをイメージした香水があるが、もちろんその深紅色はボルドーワインを注ぎ込んで仕上げているわけではない。

そしていま一つは、使用している香料そのものの色がジュースの色になる場合だ。中でも樹脂系やウッディ系の香料自体は飴を煮詰めたような暗い茶褐色をしているものが多く、これらをエタノールで希釈していくと綺麗な琥珀色のジュースが出来上がる。リベルタにも『ウッディオリエンタル』という、とろっとした甘さの中にスパイシーさと木の温もりを秘める天然樹脂の香料(トルーバルサム)をキーとした香りがあるのだが、やはりそのようなジュースの色をしている。つまりは、秋になって涼しくなるとウッディ系やオリエンタル系といった少し重めの香りに手が伸びやすくなるがために、多くの方が秋用に選び取る香水のジュースの色が自然と茶系の色に似通ってくるということなのだろう。
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ここまで書いて、上のようなことは美しき謎のままにしておくべきだったかと思わないでもないが、香水の魅力が決して香りだけに宿るのではないということが伝われば有難い。CDにジャケット買いがあるように、香りに触れる前からボトルのデザインやジュースの色に心奪われてしまうこともあるし、案外そういう香水に限って長く愛せたりする。香水の楽しみ方を規定するものはなにもないのだ。

9月になった。やがて暑さも去るだろう。其処此処でなめらかな琥珀色をした香りがひと吹き、またひと吹きと世界に放たれるたび、わたしたちの秋は深くなってゆく。