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誰かのために

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2020.08.14

正直な告白をすると、筆者は最近香水について考える時間が以前に比べて少なくなってしまった。以前、というのはもちろんコロナ禍の前のことを指す。朝、出勤ギリギリの時間の中で朝食のパンを焼くか香水を選ぶかとなったら迷わず後者を選んでいたし、出張前日はどの香りをアトマイザーに詰めるかに多くの時間を割いた。そういった気持ちが、少なくなった。分かりやすく原因を挙げるなら外出自粛やテレワークの普及で外に出なくなったからだろうし、外に出なくなったということは誰かに会わなくなったということでもある。しかし、と思う。自分は「誰か」のために香水を纏っていたのだろうか。

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「本質」とは

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2020.08.01

リニューアルする以前、わたしたちのウェブサイトには「粋」という言葉が掲げられていた。目に見えないものにこだわる美学というか、本質を知ったうえでちょっとハズすというか、自分の世界観や感性に確信を持ちつつも肩ひじを張りすぎず、別に人と違ったっていいじゃないか、と少しアイロニカルに笑うスーツ姿の長身を空想していて(言うまでもなく筆者とはかけ離れている)、たまたまそんなような感覚を言語化しようとしたら「粋」が最もしっくりきた。だから、辞書的な「粋」という意味よりもっと観念的かもしれないし、そういう意味では「粋」という言葉でなくてもいいのかもしれない。ともかくも、便宜上そう呼ぶことにした。

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この物語はほとんどフィクションです

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2020.02.07

出かける10分前、最後にもう一度鏡の前に立つ。服は上から下まで新しく、玄関で僕を待っているスニーカーのソールはまぶしいくらいに白い。ヘアスタイルもなかなかきまっている。シャワーも浴びて歯磨きも3回した。デートコースはもちろん予習済みだし、彼女の手を取るタイミングもシミュレーションしてある。完璧に違いない。違いないのだけれど、何か忘れているような、なんだかいまひとつ決め手に欠ける気がするのはなぜだろう。

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玉ねぎと理髪店とサンダルウッド

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2020.01.30

一番好きな香りはと聞かれたら、筆者はすかさず、「みじん切りにした玉ねぎをバターで炒めているときの香り」と答える。もちろんこれを自分の肌から香らせたいかといえば全くそんなことはないのだが、純粋な嗅覚上の好みではこの香りにかなうものはない。

なぜか、といえばたぶんそれは思い出と深く結びついているからだろう。子どもの頃、母が作ってくれた料理にこの工程はよく登場した。学校から帰るとキッチンから香ばしいバターの香りがして、空かせて帰った腹をいっそう心許なくさせたものだ。フライパンを覗くと、あめ色になった玉ねぎがバターを纏ってきらきら輝きながら、これから完成する素晴らしい何かの礎になる準備をしている。今でもこの香りをかぐと、毎日全力で腹を空かせていた子ども時代とキッチンに立つ母の姿が思い浮かぶし、これら光景を思い起こすとどこからかあめ色の玉ねぎの香りがしてくる。記憶と香りは双方向にアクセスし合っている。

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香りを伝える

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2020.01.24

店舗へ香水を選びに行くと、「どのような香りがお好きですか」という質問によく遭遇するのだが、これを問われるたび筆者の頭の中はめまぐるしく空転する。たしかに好きな系統の香りはあるけれど、使っている香水はあまりに多岐にわたっているし、むしろ苦手なものを答えたほうが早いのではとすら思う。とはいえ苦手な香料が含まれていてもその香水自体は気に入ることだってあるので可能性は残しておきたい。
「はい。苦みのある柑橘から始まりベチバーやオークモスが中心にあり、あとは香辛料と若干のグルマンのエッセンスを感じる香りが良いです宜しくお願い致します。」などとは言えるべくもなく、結局、端からぜんぶ試していいですか…?と恐る恐る尋ねて、販売員の完璧な微笑をほんの僅か引きつらせる羽目になる。
香りという、目に見えない主題を持ちうるこの存在について言葉にするのは、実はとても難しいのだと思う。知り合いのフレグランス販売員から聞いた以下の話がこの小稿の示唆になった。

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